大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

神戸地方裁判所 昭和43年(わ)1432号 判決

(一)

本店の所在地 神戸市長田区菅原通六丁目二番地

法人の名称

平和産業株式会社

代表者の住居

神戸市長田区片山町五丁目五一番地

代表者の氏名

水山喜夫こと 姜順賛

(二)

本店の所在地 神戸市長田区菅原通六丁目二番地

法人の名称

平和ゴム工業株式会社

代表者の住居

神戸市長田区片山町五丁目五一番地

代表者の氏名

水山喜夫こと 姜順賛

(三)

本籍 韓国済州道翰林皈徳理一一六

住居

神戸市長田区片山町五丁目五一番地

会社役員

水山喜夫こと

姜順賛

大正九年五月一五日生

右の者らに対する法人税法違反被告事件につき当裁判所は検察官井関義正出席のうえ審理を遂げ、次のとおり判決する。

主文

被告平和産業株式会社を罰金六〇〇万円、同平和ゴム工業株式会社を罰金一、〇〇〇万円、被告人姜順賛を懲役一年に各処する。

被告人姜順賛に対し、この裁判の確定した日から二年間右刑の執行を猶予する。

訴訟費用は全部被告人姜順賛の負担とする。

理由

(罪となるべき事実)

第一、被告平和産業株式会社は、神戸市長田区菅原通六丁目二番地に本店を置き、貸家業および自動車運転教習所の経営等を目的とするもの、被告人水山喜夫こと姜順賛は、右会社の代表取締役として、その業務全般を掌理しているものであるが、右会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、

(一)  昭和三九年九月一日から昭和四〇年八月三一日までの事業年度において、右会社の実際所得額は一四、三〇八、〇七八円でこれに対する税額は五、一一三、九〇〇円であったのにかかわらず、架空の修繕費を計上する等の不正の方法により所得を秘匿したうえ、昭和四〇年一〇月二九日所轄長田税務署において同署署長に対し、所得金額も税額もない旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって詐偽その他不正の行為により正当法人税額五、一一三、九〇〇円をほ脱し、

(二)  昭和四〇年九月一日から昭和四一年八月三一日までの事業年度において、右会社の実際所得額は、一六、一九七、〇二〇円でこれに対する税額は五、六三五、九〇〇円であったのにかかわらず、前同様の不正の方法により所得を秘匿したうえ、昭和四一年一〇月三一日、所轄長田税務署において、同税務署長に対し所得金額も税額もない旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって詐偽その他不正の行為により、正当法人税額五、六三五、九〇〇円をほ脱し、

(三)  昭和四一年九月一日から昭和四二年八月三一日までの事業年度において、右会社の実際所得額は、二四、五九六、八一一円で、これに対する税額は八、三四六、六〇〇円であったのにかかわらず、前同様の不正の方法により所得を秘匿したうえ、昭和四二年一〇月三〇日所轄長田税務署において、同署署長に対し、所得金額も税額もない旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって詐偽その他不正の行為により、正当法人税額八、三四六、六〇〇円をほ脱し、

第二、被告平和ゴム工業株式会社は、神戸市長田区菅原通六丁目二番地に本店を置き、ゴム製品加工および販売等を目的とするもの、被告人水山喜夫こと姜順賛は、右会社の代表取締役としてその業務全般を掌理しているものであるが、右会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、

(一)  昭和三九年一二月一日から昭和四〇年一一月三〇日までの事業年度において、右会社の実際所得額は五八、一三五、九八三円で、これに対する税額は二一、二九二、五〇〇円であったのにかかわらず売上げおよび賃加工収入の一部を除外し、これを架空名義で預金する等の不正の方法により所得を秘匿したうえ昭和四一年一月三一日、所轄長田税務署において、同署署長に対し、所得額が二六八、〇四四円で、税額が四五、三一〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって詐偽その他不正の行為により正当法人税額と申告法人税額との差額二一、二四七、一〇〇円をほ脱し、

(二)  昭和四〇年一二月一日から昭和四一年一一月三〇日までの事業年度において、右会社の実際所得額は三九、二三七、九〇五円で、これに対する税額は一三、八一一、一〇〇円であったのにかかわらず、前同様の不正の方法により所得を秘匿したうえ昭和四二年一月三一日、所轄長田税務署において、同署署長に対し、欠損金額が九、〇九二、八〇六円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって詐偽その他不正の行為により、正当法人税額一三、八一一、一〇〇円をほ脱し、

(三)  昭和四一年一二月一日から昭和四二年一一月三〇日までの事業年度において、右会社の実際所得額は三八、八三八、五一一円で、これに対する税額は一三、二一四、〇〇〇円であったのにかかわらず、前同様の不正の方法により所得を秘匿したうえ昭和四三年一月三一日、所轄長田税務署において、同署署長に対し、欠損金額が三、五三二、二九二円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって詐偽その他不正の行為により、正当法人税額一三、二一四、〇〇〇円をほ脱し

たものである。

(証拠の標目)

第一の各事実

一、橋本登の大蔵事務官に対する質問てん末書謄本及び検察官に対する供述調書

一、大喜多光男の大蔵事務官に対する質問てん末書

一、大木為次の大蔵事務官に対する質問てん末書謄本及び検察官に対する供述調書

一、中田神一の大蔵事務官に対する質問てん末書二通及び検察官に対する供述調書

一、片山弘志作成の確認書謄本

一、稲田登の大蔵事務官に対する質問てん末書及び検察官に対する供述調書

一、岡安一の大蔵事務官に対する質問てん末書

一、竹中博の大蔵事務官に対する質問てん末書二通(うち一通謄本)及び検察官に対する供述調書

一、竹中博の大蔵事務官に対する供述調書

一、坊郁男の大蔵事務官に対する質問てん末書及び検察官に対する供述調書

一、番地秀吉の大蔵事務官に対する供述書及び検察官に対する供述調書

一、稲田登の大蔵事務官に対する上申書謄本

一、谷岡利彦の大蔵事務官に対する質問てん末書及び検察官に対する供述調書

一、北沢一美の大蔵事務官に対する質問てん末書二通(うち一通謄本)及び検察官に対する供述調書

一、天満久蔵の大蔵事務官に対する質問てん末書

一、被告人姜順賛の大蔵事務官に対する質問てん末書二通(昭和四三年七月八日付、同年八月二日付)及び検察官に対する供述証書(同年一〇月二二日付)

一、大蔵事務官上村一雄作成の証明書三通(検甲一号ないし三号)

一、会社登記簿謄本一通(検甲四号)

一、押収にかかる総勘定元帳三綴(昭和四七年押第四八七号の二六ないし二八)、一般領収証、請求書綴二綴(同号の二九の一、二)、工事請負契約書一綴(同号の三〇)、自動車教習所補装工事一綴(同号の三一)、工事台帳一綴(同号の三二)、得意先元帳一綴(同号の三三)、花山アパート水害復旧工事メモ五枚(同号の三四)、請求内訳三枚(同号の三五)、金銭消費貸借証書関係書類三綴(同号の三六)、花山アパート水害復旧工事請求書、領収書一綴(同号の三七)、請求書領収書綴一綴(同号の一三)

第二の各事実

一、証人林彭の第四回、第六回、第八回、第九回公判調書中の供述部分

一、須藤正一作成の確認書二通

一、山瀬隆作成の確認書

一、銀行照会回答書綴(検察官請求番号9の分)

一、銀行調査書類(架名預金入出金状況)(検察官請求番号10の分)

一、受取手形明細表(検察官請求番号11の分)

一、証人大平はつ江の第一〇回、第一一回、第一二回公判調書中の供述部分

一、大平はつ江の大蔵事務官に対する昭和四三年三月五日付供述書

一、証人谷岡利彦の第一三回公判調書中の供述部分

一、谷岡利彦の大蔵事務官に対する質問てん末書二通及び検察官に対する供述調書二通

一、竹中博の検察官に対する供述調書謄本

一、大木為次の大蔵事務官に対する質問てん末書二通及び検察官に対する供述調書二通(うち一通謄本)

一、大西茂の検察官に対する供述調書

一、坂下佐市の大蔵事務官に対する質問てん末書及び検察官に対する供述調書

一、三城正勝の検察官に対する供述調書

一、鄭壬石の大蔵事務官に対する質問てん末書及び検察官に対する供述調書

一、西村三津子の大蔵事務官に対する質問てん末書及び検察官に対する供述調書

一、米田喜一郎、黒田進、広沢澄雄、姜石賛、洪性興の検察官に対する各供述調書

一、栄キヌ子の大蔵事務官に対する質問てん末書及び検察官に対する供述調書

一、吉川陽二郎、村崎芳男の検察官に対する各供述調書

一、元山桂子の大蔵事務官に対する供述書及び検察官に対する供述調書

一、金海昌男こと金正三の検察官に対する昭和四四年一月二九日付供述調書

一、大平はつ江の大蔵事務官に対する質問てん末書及び検察官に対する供述調書三通

一、証人金正三の第一六回公判調書の供述部分

一、甲永淑の大蔵事務官に対する質問てん末書及び検察官に対する供述調書

一、林彭、山瀬隆、金一文の検察官に対する各供述調書

一、被告人姜順賛及び弁護人連名作成の訴因に関する上申書と題する書面

一、被告人姜順賛の大蔵事務官に対する質問てん末書、(昭和四三年三月七日付、八月二八日付)及び検察官に対する供述調書(昭和四四年一月一〇日付二通、一月一七日付、一月二一日付二通、一月二四日付、一月三〇日付二通)

一、大蔵事務官上村一雄作成の証明書三通(請求番号六ないし八)

一、会社登記簿謄本一通(請求番号九)

判示第一、第二の各事実

一、第二〇回公判調書中の被告人姜順賛の供述部分

一、押収にかかる売掛帳一綴(昭和四七年押第四八七号の一)、手形受払帳一冊(同号の二)、手帳一冊(同号の三)、仕入帳一綴(同号の三)、売掛金台帳三冊(同号の五、六、七)、賃加工台帳二冊(同号八、九)、請求書領収証綴一二綴(同号の一一の一ないし一二)、別口納品受領書綴(同号の一二)、請求書領収書綴一綴(同号の一三)、手形受払帳三冊(同号の一四の一ないし三)、集計表一綴(同号の一五)、請求書一冊(同号の一六)、納品書一冊(同号の一七)、請求書一綴(同号の一八)、手形受払帳一冊(同号の一九)、普通預金通帳四冊(同号の二〇ないし二三)、普通預金元帳四枚(同号の二四)、請求内訳一綴(同号の二五)

(弁護人の主張に対する判断)

一、判示第一の(一)の事実について

検察官の主張(冒頭陳述書において主張するもの。以下同じ。)する架空修繕費二、〇八〇万円については、うち七八〇万円は、被告平和産業株式会社(以下被告平和産業という。)が被告人姜から借入れた簿外借入金であり、これを返済するため帳簿上の処理として、新建社の架空の修繕費として処理したに過ぎず、又新建社に対する前渡金一、三〇〇万円は、同社に対する仮払金であるが、当期の八月に同社が倒産したので貸倒金と記帳すべきところを、修繕費の費目に誤記したに過ぎないのであって、いずれも架空のものではないと主張する。

しかしながら、右七八〇万円が弁護人主張のとおり被告人姜に対する簿外借入金の返済であるとしても、資産の増減から見れば、簿外貸付金(資産)の増加も簿外借入金(仮受金)の返済(負債の減少)も共に所得の増加要素となるのであるから、所得の減少理由とはならない。

又関係証拠によれば、被告平和産業は昭和四〇年七月フジヤホテル建築の前渡金として一、三〇〇万円を新建社に支払い、同社は同年七月頃からフジヤホテルの建築を進め、同社が倒産するまでに四三四万八、九七六円の工事費用を支出しているが、被告平和産業はその後右工事の出来高計算をなし、その額を四五〇万円とし同額でフジ観光(株)が受入れていること、新建社は同年八月に和議申請をなし、同年一二月破産宣告を受けたこと、被告平和産業は同年八月下旬頃新建社所在の神戸市兵庫区入江通二丁目四番地の土地、建物について債権額を一、三〇〇万円とする抵当権を設定したが、右土地、建物はすでに神戸銀行、信用保証協会及び兵庫相互銀行の約三、〇〇〇万円の担保に入っており、第一回目(昭和四一年)の競売最低価格は三、五〇〇万円であったが、右土地、建物の時価は右競売最低価格よりは高いこと、右競売物件については、起訴年度内の全期間を通じて競落がなされていないこと、被告平和産業は新建社との間に昭和四〇年一一月右土地、建物につき同年九月二〇日付の賃貸借契約書を作成し、右貸借権に基づき同四一年二、三月頃から同所で相互モータースを経営していることが認められるところ、税務上、債権を貸倒れとして損金に算入するためには、回収不能の事実が確定していることを要するが、本件においては、右のとおり前渡金債権の回収が不能であると確定したとはいえないことが明らかである。

二、判示第一の(二)の事実について。

検察官が主張する平和台自動車学院の練習コースの修理費三〇〇万円は、破損したコースの復旧作業に要した費用であるから、税法上修繕費に該当するものであり、資本的支出として資産に計上するのは不当であると主張する。

関係証拠によれば、大日本建設(株)は昭和四一年七月被告平和産業から平和台自動車学院のコースの舗装工事を代金三〇〇万円で請負い、同年八月二七日竣工したこと、当時既設の舗装はすでに寿命がきており、帳簿上の残存価額も一八万三、六九七円に過ぎなかったこと、右工事は学院内コースの大部分約七、〇〇〇平方メートルについて、修正トベカ工法により既設の舗装の上へ平均三センチメートルの厚さで舗装したものであって、五年位は十分もつものであったことが認められるから、税法上修繕費に該当しないことは明らかである。

次に、検察官主張の大日本建設(株)に対する架空未払金三八六万円は、同建設が請負ったコース修理外の附属設備の見積書に記載された見積額であり、これが費用として五三万六、〇〇〇円を支払済のところ、これを誤認して未払金として全額計上したものであると主張するが、右五三万六、〇〇〇円を支払った事実を認める証拠はない。

次に、検察官主張の新建社に対する架空未払金二四〇万円は、新建社の不動産を被告平和産業において賃料月三〇万円で賃借しこれと被告人姜所有の土地を新建社が材料置場としていた使用料と相殺すべく、預り金として二四〇万円を計上したものであると主張する。

しかしながら、関係証拠によれば、被告平和産業と新建社との間の同社所在の土地、建物に関する賃貸借契約は、被告平和産業の債権確保のための手段としてなされたものであること、賃貸借契約書には、形式的に賃料が記載されているだけで、当事者間でこれを実行する意思も事実もなかったことが認められ、北沢一美作成の昭和五〇年六月三〇日付証明書の内容は措信できない。

三、判示第一の(三)の事実について。

検察官が主張する旭建設(株)に対する架空修繕費二五〇万円については、うち七五万円は工事代として実際に支払っていると主張する。

しかしながら、関係証拠によれば、花山アパートの修繕工事三五万円は、翌事業年度の昭和四二年一〇月一九日に旭建設が請負い、同年一二月一五日完成したものであること、又四〇万円は別法人である被告平和ゴム株式会社の工場修繕工事であって、同年一一月末頃完成し、同年一二月一二日支払ったものであることが明らかである。

次に、検察官主張の旭建設外四件に対する架空修繕費一八一万円のうち、一五一万円は架空のものではないので、修繕費と認定すべきであると主張する。

しかしながら、関係証拠によれば、自動車即売展示場は、被告平和産業が自動車の塗装屋を購入し、これを解体した跡に整地と土間コンクリート打を行ない、鉄骨製の展示場と事務所及び垣を作ったことが認められ、これによれば、右展示場は全くの新設であり、修繕費の要素となるべきものは全く含まれていないことが明らかである。

次に、検察官主張の新建社に対する架空地代家賃三六〇万円は、実際に支払っていると主張するが、前記二の項で認定したとおり、賃料支払の事実はない。

四、判示第二の(一)の事実について。

(イ)  大日化学工業所の分について。

検察官が主張する簿外材料売上一、一七七万三、四七五円、簿外加工収入二三〇万三、四〇三円計一、四〇七万六、八七八円は税務職員林彭作成の昭和四七年三月六日付上申書により売上除外としたものであるが、右上申書別紙(1)の符せん番号1から5までの手形五通手形代金合計二九四万五、三〇二円は前年度のものであると主張する。

関係証拠によると、被告平和ゴム工業株式会社(以下被告平和ゴムという)が昭和三九年一二月から同四〇年一一月までの間に福岡化学から受取った手形のサイドは、ほぼ四ケ月であること、福岡化学が振出した支払手形のサイドは、被告平和ゴム渡しの場合と大日化学渡しの場合とで差異はないこと、大日化学が受取った手形が被告平和ゴムに廻されるまでの期間については、その月中に被告平和ゴムに交付されていたことが認められるところ、右事実からすれば、上申書別紙(1)の符せん番号1の福岡化学振出にかかる五二万九、一〇〇円の手形は、被告平和ゴムが大日化学から昭和四〇年一月に受取ったもので、昭和三九年一二月分の売上又は加工賃の代金と認めるのが相当である。

次に残り四通の手形代金についてみると、関係証拠によれば売掛帳(B)(昭和四七年押第四八七号の一)の存在する昭和四二年一一月期(第三年度)は、原材料売上及び賃加工収入とも期首残を公表帳簿に計上しているが、原材料売上について昭和四一年一一月残及び同四二年一一月残とも二〇万円程度を残して翌月決済されていること、賃加工収入については、昭和四一年一一月残は翌月決済されていないが、被告平和ゴムの公表の賃加工台帳(同号の八、九)の大日化学口座をみると、昭和三九年一二月、同四〇年一二月ともほぼ期首売掛金に見合うだけの決済がされていること、大平はつ江は「三九、四〇、四一年度分の(B)の決済状況は売掛帳(B)の決済状況と同様であったと考えていただいて間違いなく、……材料代の方は……期末では一一月分一か月分が売掛金残となっておりました。年末には残高はほとんどなくしておりましたから、一一月分は一二月に支払されておりました。」と述べていること(昭和四三年七月二九日付上申書)が認められ、これらの点からすれば、大日化学に対する昭和三九、四〇、四一各年の一二月一日の売掛金残は一二月中に決済された金額程度と認定するのが相当である。

次に、毎年度前月二五日の締切として、その月の平均五日分は翌年の売上として計上していたのであるから、三六五日分の五日間分の売上六万二〇六七円が減額さるべきであると主張する。

被告平和ゴムが大日化学に対し毎月二五日前後に帳簿を締切って請求し、決済を受けていたことは帳簿上明らかであるから一二月入金額の三〇分の五は前年度売上に属する。従っていわゆる帳簿分を加減する必要があるが、帳簿分の金額は前事業年度の一一月分の請求額に基づいてその三〇分の五として計算するのが相当である。その計算方式は別紙(一)のとおりであり、これによれば当期売上、加工収入金額は一、四二四万二、三一六円となるところ、検察官の主張額が一、四〇七万六、八七八円であるから、検察官の主張限度内で認定する。

次に、税務職員林彭作成の昭和四七年三月六日付上申書にいう架空名義の預金中には、被告人姜順賛個人の賃金及び手形割引金が含まれている。即ち昭和三八年四月大日化学が整理される前の貸金の返済として三六〇万円、手形割引をした戻り金三〇〇万円計六六〇万円は除外されるべきであると主張する。

被告人姜は検察官に対し、大日化学への立替金が約一、一六〇万円、貸付金が三六〇万円、手形割引が昭和四〇年に三〇〇万円位、同四一年に五〇〇万円位ある旨供述しているが、関係証拠によれば、立替金は被告人姜の供述するような多額ではなく、内整理後の昭和三八年九月以降にも被告平和ゴムと大日化学との間に仮払金の出入があることから見ても、昭和三八年中に概ね決着がついたと考えられること、貸付金については、昭和三九年一一月以前か、又は廻し手形以外の方法で返済したものと認められ(三六〇万円の返済に関する被告人姜及び金正三の供述は抽象的で具体性がなく、措信できない)、又手形割引については、検察官主張のほ脱額に割引手形が算入されていないことが認められる。

(ロ)  大伸化学工業所の分について。

検察官が主張する簿外材料売上一、五五六万四、三二四円、簿外加工収入八九二万八、六二三円計二、四四九万二、九四七円は税務職員林彭作成の昭和四八年一月二〇日付上申書により売上除外としたものであるが、右上申書別紙No.1中、入金日40.4.19の分から同5.17までの手形合計九通、手形金合計二一九万一、一五一円は、手形期日のサイドの関係で前年度の売上分であると主張する。

昭和四〇年度賃加工台帳(同号の八)によれば、手形期日が昭和四〇年四月三〇日以降のものは、同年一月の受取りにかかるものであると認められるところ、弁護人主張の手形九通のうち、手形期日が四月二九日以前の四枚(手形金額六万九〇〇円、一四万三、二〇〇円、一二万四、〇〇〇円及び二六万円のもの。合計金額五八万八、一〇〇円)については、前年度の売上分に属するのではないかとの疑があるから、右五八万八、一〇〇円は減額すべきである。

次に、昭和四〇年一月分の売上除外額とされているもののうち、三〇分の五は、大日化学について述べたと同一の理由により減額されるべきであると主張する。

被告平和ゴムが大伸化学に対して毎月二五日前後に帳簿を締切って請求していたことは帳簿上明らかであるから、一二月入金額の三〇分の五は前年分の売上に属する。前記五八万八、一〇〇円を減額したうえで、前記方式により計算すると、当期売上、収入金額は別紙(二)のとおり二、三八五万七、八二八円となり、検察官主張金額から六三万五、一一九円が減額されることになる。

次に、手形割引金として二〇〇万円が減額されるべきであると主張する。

この点に関する被告人姜や金一文の供述は曖昧であって、根拠がないばかりか、大伸化学について、会社の口座や本名の口座で割引いたものがないこと、被告人姜の個人預金(本名を含む)の出金と大伸化学の預金の入金とを対照しても合致するものがないこと、割引料について、被告人姜は大日化学、大伸化学からは受取っていないと述べていること、金一文は日歩二銭五厘位はなかったと認めるのが相当である。

(ハ)  大祐化学工業所の分について。

検察官が主張する簿外材料売上一八九二万三八一六円は税務職員林彭作成の昭和四八年一月二〇日付上申書により売上除外したものであるが、右上申書別紙No.8中入金日40.4.23の分から同5.22までの手形合計一二通、手形金合計三一五万四、二八八円は手形期日のサイドから前年度の売上分であると主張する。

昭和四〇年度賃加工台帳(同号の八)、手形受払帳(同号の一九)と右各手形とを比較すると、これらの手形はいずれも被告平和ゴムが大祐化学から昭和四〇年一月に受取ったものであって、同三九年一二月の売上分であることが認められる。

次に、昭和四〇年一月分の売上の三〇分の五は前月二五日締切後の前年度の五日分として除外すべきであると主張する。被告平和ゴムが大祐化学に対して毎月二五日前後に帳簿を締切って請求していたことは帳簿上明らかであるから、一二月入金額の三〇分の五は前年分の売上に属する。前記方式により当期売上収入金額を計算すると、別紙(三)のとおり一、八七五万八、八四四円となり、検察官主張金額から一六万四、九七二円が減額されることになる。

次に、手形割引金として三五〇万円が減額されるべきであると主張するが、この点に関する被告人姜の供述は抽象的であり、具体的に代金支払の手形と割引手形との区別ができないこと、収入除外額の計算の基礎とされている手形には、申永淑が供述するような割引手形は見当らないこと等から考えると、右の手形割引はなかったと認めるのが相当である。

五、判示第二の(二)の事実について

(イ)  大日化学に対する手形割引金七〇〇万円、大伸化学に対する手形割引金三〇〇万円が減額されるべきであると主張するが、前者については、被告平和ゴムの公表帳簿記載の割引額以上に割引があったとの証拠はなく、後者についても四の(ロ)で述べたと同一の理由により手形割引はなかったものと認める。

(ロ)  検察官が主張する栄進スポンヂ工業所に対する簿外材料売上六五万五〇七円は手形割引であり、材料売上の除外によるほ脱額ではないと主張するが、鄭壬石及び大平はつ江の供述を綜合すると、右金額が手形割引によるものであるとの事実は認められない。

(ハ)  韓国領事館への寄附金一〇〇万円が減額されるべきであると主張するが、関係証拠によれば、右寄附は被告平和ゴムと関係なく、被告人姜が個人として支出したものと認めるのが相当である。

六、判示第二の(三)の事実について。

(イ)  学校法人韓国学園への寄附金一五〇万円が減額されるべきであると主張するが、右五の(ハ)と同様被告人姜が個人として支出したことが認められる。

(ロ)  被告人姜個人で機械賃貸料一〇万円を所得申告済であるから、減額されるべきであると主張するが、神和化学工業所のロール賃貸料一〇万円について、被告人姜個人が所得申告済であるとしても、賃貸料が会社の収入すべきものである以上、納税義務を負わない者についてこれが正当に確定することはありえないから、減額すべきいわれはない。

七、 被告平和産業については、昭和四九年一二月二五日付で国税不服審判所所長の裁決により、昭和三九年九月一日から同四〇年八月三一日までの事業年度以後法人税の青色申告承認取消及び起訴されている各事業年度の法人税の更正処分並びに重加算税の全部が取消されたのであるから、本件ほ脱犯は成立しないと主張する。しかしながら、右の取消裁決は、法人税の青色申告承認取消通知書には法人税法一三〇条二項に定める理由を附記しなければならないのに、理由附記を欠いたために前記のとおり取消しがなされたものであって、単なる徴税上の手続の欠陥をいうに過ぎず、実体上被告平和産業にほ脱の事実があるかどうかとは別個の問題であるから、右取消裁決があるからといって、ほ脱犯が成立しないということはできない。

訴因に対する判断(被告平和ゴムに関する)

被告平和ゴムの第二年度(昭和四〇年一二月一日から同四一年一一月三〇日まで)の所得中、大日化学、大伸化学及び大祐化学からのものは、毎月二五日前後に帳簿を締切って決済していたのであるから、一二月入金額の三〇分の五は前年度の売上に属する。前記方式により右三者について当期売上、収入金額を計算すると、別紙(四)ないし(六)のとおりであり、検察官主張金額から大日化学につき四〇万四、二七一円、大伸化学につき五〇万八、七一九円、大祐化学につき四六万二九二円がそれぞれ減額されることになる。

従って、前記弁護人の主張に対する判断の項で示した第一年度において減額すべき別紙(二)、(三)の金額と右第二年度において減額すべき別紙(四)ないし(六)の金額とを加え、検察官主張の各犯則所得金額から右合計金額を差し引くと、第一年度の犯則所得は五、七八六万七、九三九円、第二年度の犯則所得は三、九二三万七、九〇五円となる。

(法令の適用)

被告平和産業株式会社に対し

判示第一の(一)ないし(三)の事実 各法人税法一六四条一項、一五九条一項(なお判示第一の一については、更に昭和四〇年法律一三四号による改正前の法人税法五一条一項、四八条一項)

併合罪加重 刑法四五条前段、四八条二項

被告平和ゴム工業株式会社に対し

判示第二の(一)ないし(三)の事実 各法人税法一六四条一項、一五九条一項(なお判示第二の一については、更に昭和四〇年法律一三四号による改正前の法人税法五一条一項、四八条一項)

併合罪加重 刑法四五条前段、四八条二項

被告人姜順賛に対し

判示第一の(一)ないし(三)及び同第二の(一)ないし(三)の事実

各法人税法一五九条一項(いずれも懲役刑選択。なお判示第一の一及び同第二の一については、更に昭和四〇年法律一三四号による改正前の法人税法四八条一項)

併合罪加重 刑法四五条前段、四七条本文、一〇条(第二の(一)の罪の刑に加重)

執行猶予 刑法二五条一項

訴訟費用 刑事訴訟法一八一条一項本文

(裁判官 荒石利雄)

別紙

〈省略〉

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例